DOUJIN SPIRITS

二次創作イラスト・マンガ・小説を公開するブログです

爆ベイ 催涙雨

※この作品は「織姫と彦星」というお題をいただいてTwitter上にUPしたSSです。

 

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— 催涙雨 —

「星、キレイだなぁ~」
 遠くの山々を臨む大きな窓から夜空を見上げ、唐突に呟く木ノ宮タカオに、火渡カイは「また始まった」とばかりに、肩をすくめた。
 ベイブレード世界大会も歴史を積み重ね、参加者の増加と年齢層の幅が広がるにつれて、これまでのジュニアクラスだけでなくシニアクラスや、ジュニアから細分化したティーンズクラスという大会も催されるようになった。対象者は十五歳から二十歳まで。つまり高校生から大学生ぐらいの年齢の者に参加資格がある。
 かつてのジュニア大会の覇者も高校に進学したが、その腕前が衰えることはなく、ティーンズクラス日本予選でも堂々の優勝。今は明日から始まるアジア予選会場の中国にいる。
 明日の一回戦で対戦する相手の映像を入手したので、ホテルのラウンジにて攻略法を検討するミーティングをやろう、というキョウジュの呼びかけに応じ、只今廊下を移動中。試合について語っていたかと思えば、いきなり星の話を始めたタカオだが、それにも慣れっこになっているカイはその話題をスルーしようとした。
「あ、あれ、夏の大三角形。知ってる? はくちょう座の……」
「おまえ、オレをバカにしているのか。小学生の理科レベルだぞ」
 スルーするつもりが応じてしまった。
「そっか。そうだよな、おまえんとこの学校、偏差値高いもんな。でもさ、オレ、星にはちょっとばかり詳しいんだぜ」
 夏の大三角形とは三つのα星、はくちょう座のデネブと、わし座のアルタイル、こと座のベガを結んで作られる夏の夜空の大きな三角形のことで、アルタイルは彦星、ベガが織姫。天の川を挟んだ二つの星は七夕伝説の主役となっている。もちろん、高校生が自慢げに話すレベルの内容ではない。
「七夕ならこの中国が起源だ。彦星は牽牛、織姫は織女。結婚したはいいが、二人揃って仕事をサボり、遊び呆けていたために、神の怒りに触れて年に一度しか会えなくなった」
 七夕伝説をざっくりと語ると、タカオは目を丸くした。
「さっすが。何でも知ってるんだな」
「そっちが知らなすぎだ。それでよくも星に詳しいなんて言えたもんだな」
「面目ねぇ~」
 屈託なく笑う、その笑顔に癒される自分がいる。
「織姫は天の川を渡って彦星に会いに行くが、雨で増水になると舟が渡せなくなる。七夕の日に降る雨は会えなくなった二人が川の両岸で流す涙とも言われ、催涙雨という言葉もある」
「さいるいう、か……」
 しんみりした口調になったタカオは「一年に一度のチャンスに会えないなんて、そりゃ泣けてくるよな」と続けた。
「こうやって大会があるから会えるけど、そうじゃなかったらオレだって……」
 思わずそちらを見やると、タカオはつい漏れてしまった本音に戸惑い、慌てた様子で視線を背けた。
「誰に会えるって?」
「わ~、聞かなかったことにしてくれよ」
「そうはいくか」
 距離を縮めてくるカイから逃れようと後退るタカオ、その背中が廊下の壁に当たって身動きできなくなると、カイはタカオの頭上に左腕をやった。いわゆる『壁ドン』の姿勢である。
「誰だ? 言ってみろ」
「わかってるくせに」
「オレなら増水しようが何だろうが構わない。舟が出ないなら泳いで渡るだけだ」
「カイ?」
「大会があろうがなかろうが、会いに行く」
「……その言葉、忘れるなよ」
「ああ」
 すっかりいいムードになり、キスを迫ろうとしたカイの背後からキンキン声が響き渡ってきた。
「二人とも何やってるんですか? ミーティング始めますよっ!」
                                ——了