DOUJIN SPIRITS

二次創作イラスト・マンガ・小説を公開するブログです

ベイバ P.S.君惑うことなかれ (C-Ver.❶)

 先に公開したSS・G-Ver.のシュウバルCP版、すなわちC-Ver.の第一話です。アニメ時々原作に沿った内容ですが【腐】要素が入り込んでの拡大解釈、いつの間にやらラブストーリーになっていますので御了承ください。今回の内容はアニメ無印の範囲で、第二話はアニメ神と続き、トータルでは中~長編の長さになる予定です。そんなに続けられるのか? 頑張ります……

 G-Ver.は三人称で書きましたが、今回はシュウ視点の一人称にトライしました。じつは二次創作での一人称は初めてなんですよ。三人称よりも一人称で書かないと、シュウの心情を描き切るのは難しいと判断したからなんですが、果たしてどこまで描けるのか……こんな小学生はいないと思える言い回しをお許しください。

 シュウバルの二次創作はコメディやほのぼのとした御作が多くてコメディ好きとしてはとても嬉しいです。ただし自作は敢えてのシリアス、書くのはちょっとキツいんですけどね。※表紙はG-Ver.の使い回しですが、月の位置が微妙に違っています。

 

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    第一話  親友でライバルで?

「……シュウ、ねえ、シュウってばぁ。オレ、もう腹減っちゃった」

「あーっ、教科書忘れた! わりィ、見せて。一生のお願い」

「なあ、ここの掃除手伝ってくれよ。全然終わんねーんだよ、頼むよぉ」

――大きな瞳をくるくると動かして、蒼井バルトはいつもまとわりついてくる。運動神経はいいけれど勉強は苦手で、宿題の手助けをしたことは数えきれないし、オレ自身は自分で言うのも何だけど成績優秀・品行方正なのに、先生のお説教の『とばっちり』を受けたことも一度や二度じゃない。みんなオレのことをバルトのお世話係とでも思っているらしく、何かしらの厄介事が発生するとこっちに振ってくるせいだ。

 幼馴染のバルト、その弟の常夏と妹の日夏もひっくるめて、彼らとは兄弟のように過ごしてきたオレ、つまりバルトは友達というより手のかかる弟みたいなもので、ゆえに世話を任されるのだと納得するしかなかった。もっとも、一人っ子のオレにとっては、兄弟のような存在が嬉しかったのも事実だ。

 そんなバルトがちょっと前にハマったのがベイブレードで、彼に影響されたオレも始めてみたら、面白くて仕方ない。のめり込んでいくうちにメキメキと腕前を上げたオレは昨年、大会予選にエントリーすることにした。ベイブレードを操る者すなわちブレーダー、その日本一を決める全国大会が毎年開催されているのだ。そこでは自分でも驚くほど順調に勝ち進み、全国大会で準優勝してからは天才ブレーダー扱いされ、最強ベイブレーダーの称号『四転皇』の一人とまで呼ばれるようになった。

 もちろんバルトがオレの活躍を、ただ指を咥えて眺めているだけのはずはない。「ベイを始めたのはオレの方が早かったのに、何でこんなに差がついちゃったんだよ~」とボヤきながらも特訓を開始、オレも指導者になったような心積もりでアドバイスをする機会も増えた。さらに、バルトの行動は個人の練習にとどまらず、小学校内でいつでもベイの練習ができるようにと、ベイブレードを行なう部活動、すなわちベイクラブをも立ち上げてしまった。

 当然ながらオレも部員に引き込まれたのだが、クラブという集団になったお蔭で、今年度の大会には団体戦での参加も可能になった。従って、米駒学園チームとして出場する団体戦と、米駒地区予選から始まる個人戦に、部員各自がエントリーすることになる。

 いよいよ今年の予選が始まるのか……オレの中の闘志が否応なく燃え上がってきた。今度こそ白鷺城ルイを倒し、優勝してみせる。ルイは昨年の決勝戦で戦った相手で、彼の放った一撃からベイがぶつかってオレの瞼に傷をつけ、心にはそれ以上の傷が残った。もう二度と、あんな屈辱は味わいたくはない。

 地区予選の期間中、右手に怪我を負ったオレは不利な状況を乗り越えて優勝を果たし、全国への切符を手に入れた。決勝まで勝ち上がってきたのはバルトだった。彼の急激な追い上げには正直驚いたが、怪我を言い訳にして負けるわけにはいかない。オレのコンディションを気遣い、気弱になるバルトを叱咤激励して勝負したものの、ギリギリの勝利で、内心冷汗をかいていたことは口が裂けても言えなかった。しかも、当のバルトは敗者復活戦で勝利し、再び全国へ、オレへの挑戦権を得たのだ。自分の中に微かな焦りが生まれていた。

 団体戦が終了して次からは個人戦が始まる。バルトは「 全国の舞台で、今度こそシュウに勝つ!」と自分に言い聞かせるようになった。地方予選とは比べものにならないほど、強者揃いの全国で、しかも初出場の身で、だが、敗者復活戦を突破したバルトは破竹の勢いで勝ち進むだろうと充分に予想できる。このまま決勝まで上がってくる可能性は否定できなくなっていた。バルトが追いついてくる……オレの中の焦りは少しずつ膨らんでいて、それでもその感情を直視できずに見ないふりをするだけだった。

    ◆    ◆    ◆

 明後日からの個人戦の開始を控えた放課後、新しいランチャーを買いにベイショップへ立ち寄ったオレはそこで灼炎寺カイザに会った。通称シャカと呼ばれる彼も幼馴染であり、進学先の小学校は別々になったが、今でも付き合いがある。先日も怪我のことで世話になったし、そもそもシャカは『四転皇』の一人で、各種の大会では必ず顔を合わせる間柄なのだ。

「よう、シュウも買い物か?」

 山ほどのランチャーを抱えたシャカがそう声をかけてきた。シュートのたびに破壊してしまうので、毎回大量購入を余儀なくされているらしい。

「もう少し環境に配慮しろよ」

「ガッハッハッ、面目ない」

 豪快に笑ったあと、先のオレたちの決勝戦も観戦していた彼は今のバルトの様子を訊いてきた。

「それにしてもバルトは強くなったなぁ。ま、そうでなければ面白くないがな。全国ではおまえとも、あいつとも当たるのを楽しみにしているんだが」

 シャカがバルトの成長を賛美するのを聞いて、苛立ちがオレを支配し始めた。心の奥に抑え込んでいた、あの焦りの気持ちが顔を覗かせたのだ。

「さあ。オレはともかく、バルトはおまえと当たるまで、残っていればの話だな」

 思わずそう口にすると、シャカは目を丸くしてこちらを覗き込んできた。

「シュウ、おまえ……」

 不思議なものを見るような視線が癪に障る。「顔に何かついているのか」と切り返すと、彼は軽く首を振った。

「いや……そうだ、ジュース奢ってやるから、ちょっと付き合ってくれないか?」

 そして会計を済ませたオレたちは最寄りの公園へ出向いた。ベンチに座るオレの横に腰掛けたシャカはそれから、販売機で買ったペットボトルを手渡してきた。

「ほらよ。オレンジで良かったか?」

 ボトルの表面の水滴に指が触れてヒンヤリとする。悪くはない感触だ。

「ああ、ありがとう」

 シャカはコーラのキャップを開けると、中身を一気に飲んだあとはしばらく黙っていた。何か話があったのではないか、そう思いながらも沈黙を守る。

「……シュウはバルトをどう思っているんだ?」

 ふいの質問に、答えに窮していると、

「バルトはライバル以前に友達、だよな?」

 そう畳み込んできたので「もちろんだ。当たり前のことを訊くんだな」と反撃してみせた。

「当たり前、か」

「わざわざそんな話をするために、ここまで来たわけじゃないだろう」

「そのとおりだ」

 シャカはボトルを脇に置いて、大きく伸びをした。仕切り直したつもりのようだ。

「昔馴染みのダチが強くなって、ライバルとして立ちはだかる。全国という大舞台で、全力で自分に挑戦してくる。オレとしちゃあ、ワクワクっつーよりゾクゾクする展開だが、どうやらおまえはそうじゃないみたいだと感じた、それだけのことだ」

「……何が言いたい?」

「バルトにはこれ以上強くなって欲しくないと思っているんじゃないのか?」

 あいつの勢いを恐れていると見えたのか。それではまるっきり臆病者の反応ではないか、侮辱するにもほどがある。鼻白んだオレは苛立ちを隠そうともせずに、

「オレがバルトに負けるかもしれないと不安を感じているから、そういう理由か? バカな、そんなつもりは……」

「いや、そうじゃない」

 シャカは強い口調でオレの言葉を遮った。

「バルトが自分の手から離れていくのを懼れている」

「自分の……手……?」

 オレは思わず両手の掌を見つめた。この手からバルトが……?

「バルトはずっとおまえの背中を追っていたし、今は全国でおまえと戦うのを目標にしている。だがこの先、最強ブレーダーの仲間入りをしたら、あいつの反応はどうなるだろうな。もっと多くの強いライバルに目がいくようになるし、おまえの存在価値は低くなってしまう。万が一でも勝てば尚更だ」

 そうだ、幼稚園の頃からバルトのお世話係で、今も学校内にとどまらずあらゆる場面で世話を焼いて、ベイに関しては専属コーチのようにアドバイスを与えて……

『うめぇ! シュウの作るナポリタン、最高にうめぇよ』

『教科書ありがとな。助かったぜ、感謝感謝~』

『わぁ、シュウが手伝ってくれたお蔭でこんなに早く終わった。サンキューな』

 手のかかる弟のような存在とはいえ、同級生、友達同士という対等な立場だったはずなのに、オレは自分でも意識しないまま、バルトを上から見下ろす位置に立っていた。彼に何かを施して、感謝されることで彼を支配したかのようなつもりでいた。いわばオレの庇護下にあったはずのバルトが力をつけた結果、オレの元を離れてしまうと――まるで雛が親鳥の羽の下から飛び立とうとする若鳥になるような、そんな展開を懼れているとでも……?

「バカバカしい。オレはバルトの保護者じゃない」

「保護者? うーん、それとはちょっとニュアンスが違うな」

「ニュアンスって……だったら何だと言うんだ、まさかあいつはオレの所有物とでも言い出すつもりか?」

「所有物か、当たらずと雖も遠からずってとこかな。手放したくない、ずっと手元に置いておきたい、みたいな感じだと思うんだが。例えるならそうだな……いっそのこと、彼女なら説明がつくか?」

「はあ?」

「恋人とか嫁とか……」

「おまえ、言うに事を欠いて」

「いやいや、男同士でさすがにそれはないか。ガーハッハッハッ」

 シャカはまたしても大笑いして話をうやむやにしたが、今聞かされた思いがけない単語のせいで、オレは大混乱を起こしていた。頭の中がそれこそバーストしてしまいそうだ。

 バルトはオレの、オレはバルトの何なのか――  

    ◆    ◆    ◆

 悪夢再び。全国大会個人戦の準決勝で、オレはまたしてもルイに敗れた。昨年の屈辱を晴らすことはできなかった。この一年間、練習にひたすら打ち込んできた、あの時間は何だったのか……スプリガンが壊れて、オレの心も壊れてしまったかのように、しばらくは虚無感に囚われるばかりだった。

 これで最終決戦はルイ対バルトに決まり、決勝でバルトと戦うという約束は守れなかった。一方、オレの敗北を我が事のように悔しがっていたバルトは「シュウの分まで必ず勝つ」と言い、猛特訓を己に課していた。

 約束が果たせなかった後悔から、バルトに「頑張れ!」と声を掛けているのは確かにオレ自身だ。噓偽りのないオレの本心のはずだ。にもかかわらず「ルイを倒すなんて、今のバルトには無理だろう」という考えが心の片隅に巣食っているのを認めて、そんな浅ましい自分に嫌気が差す。

 バルトは純粋だ。どこまでもオレを信じて、オレを応援して、オレのために涙を流してくれる。それなのに、オレはバルト自身の望みとは真逆の「ルイには勝てないバルト」であって欲しい、そう願っているというのか。

 つまりは追いつかれたくないから? 追い越されたくないから? 強くなることでオレから離れていくのを懼れているから? いつまでもオレの後ろについて助けを請うて欲しいから? そんなふうにしか思えない存在を友達とは呼ばない。ならばだ、シャカの言葉を借りたとして「恋人」とでも思っているのか。いや、いくら何でもそれは飛躍しすぎだろう。まったく、あの脳筋男め、発想が貧困すぎる。

 自分で言うと自慢している、鼻持ちならないヤツでしかないが、オレは女子の間で人気が高いらしい。『四転皇』に続いて『ミスター米駒学園』の称号も頂き、女の子たちからのアプローチもそれなりにあった。が、ベイだけではなく勉強にもしっかりと打ち込まなければならない時に、色恋沙汰に現を抜かしている暇はないと思い「好きな子はいるの?」という質問には「いない」と答え、さらに「中学受験をする予定があるから、今はそういうことは考えられない」で通してきた。

 この先、いつかは恋愛もするし結婚もするだろう。もちろん相手は絶対に女性でなければならないといった、時代にそぐわない考えはないから、男性を恋愛の対象にする可能性も無きにしも非ずだが、まさかそれがバルトだと? どうしてそうなるんだ? そもそも、恋人というのは自分が相手に好意を抱いていて、相手と触れ合いたい、いつも一緒にいたいと願って……

 さんざん理屈をこね回していたオレはそこで愕然とした。じつのところ、オレがバルトに抱いている感情は恋人に対するそれに近いのではないのか。シャカの指摘したとおりなんてシャレにもならないが、そんな、まさか……だがもう、否定できる材料がない。むしろバルトのことが好きだと裏付ける要素しかない。認めるしかないのだ。もっとも、恋人とは相手も同等の気持ちを持っていて初めてそう呼べるのだから、あくまで友情レベルのバルトに対して、オレの想いは一方通行でしかなくて――

 ああもう、いったい何を血迷っているんだ。オレは自身を戒め、邪な想いを抱かないよう努めた。そういう感情に振り回されている場合じゃない。ここまでの問答はすべて自分の中に封じ込めよう。今はとにかく親友として、ベイクラブの仲間としてバルトを応援すべきだ。

 決勝戦の朝、オレは早めに家を出ると、愛車のクロスバイクを飛ばして、試合会場へと向かった。会場の目前には砂浜が広がっている。波打ち際に目をやると、走り込みを行なうバルトの姿が見えた。まさか、ここに来て二人きりになれるなんて……

「早く来すぎちゃって」

 屈託なく笑うバルトが眩しくてドギマギする。封じ込めたはずの感情が溢れ出そうで、目を逸らすしかない。ペダルをこいでいた間よりも今の方が、心拍数が上がっているのがわかる。

 一緒に走るかという誘いを承知して、チャリから降りてそちらに向かう。ふいに、ポチャンと何かの跳ねる音がした。ポチャンどころではない、ザバッというレベルだ。

「えっ、今のはなに?」

「イルカだ」

 沿岸部までやってくるのは珍しいなと思っていると、バルトは瞳をキラキラと輝かせてそちらを見つめていた。水族館でしかお目にかかれない生き物が間近で泳いでいたのだ、驚きと嬉しさのあまり、そのまま海に突っ込むかのような勢いで前のめりになるので、慌てて肩をつかむ。

「…………!」

 指から右腕に電流が走った。こんな場面は今まで何度もあったのに、必要以上に意識しているせいだ。それでいて、彼の肩を離すことができないでいる。

 このままずっと――

 オレの想いなど知る由もないバルトは無邪気に手を振った。

「イルカー、またあとでなー」

 試合が終わる頃まで彼(イルカ)がここらにとどまっているとは思えないが。そんな無粋な発言をするわけにもいかず、オレは試合会場への移動を促した。とにかく今はひとりの応援団員だと自分に言い聞かせながら。

    ◆    ◆    ◆

 ルイとバルトの戦いは大方の予想を覆して大接戦となった。バルトが手を痛めたとわかった時は考えるより早く足が動き、氷を用意して彼の元へと向かった。幸い、大事には至らなかったようだが、このまま戦い抜けるのかという不安は残る。それから――

――残念な結果に終わったが、バルトは最後の最後までルイを追い詰めた。涙にまみれ顔をくしゃくしゃにしながらも、彼はルイに向かって「やっぱ強えな、ルイ!」と笑いかけ、その刹那、オレの中に衝撃が走った。

『……この先、最強ブレーダーの仲間入りをしたら、あいつの反応はどうなるだろうな。もっと多くの強いライバルに目がいくようになるし、おまえの存在価値は低くなってしまう』

 負けはしたが、バルトは最強ブレーダーになった。ルイのライバルとして認められ、オレの背中はとうに追い越された。彼は――ついにオレの手から離れてしまったのだ。この気持ちは嫉妬? それとも絶望? 胸が締めつけられて声にならない悲鳴を上げる。もうこの場にはいられない。

 誰にも気づかれないように、まだまだ湧き上がる観客席を立ち、裏手の薄暗い通路を進む。独りになりたかったのだがしかし、行く先に人影が見えた。

「紅シュウくん」

 人影が話しかけてきた。薄暗がりでわからなかったが、よく見ると外国人の男性だった。スマートな紳士で齢は三十代といったところか、それなりの身分らしく屈強なボディーガード二人を御供として連れている。

 紳士はアレキサンダー・ギルデンと名乗り、ベイクラブ『ニューヨークブルズ』のオーナーだと続けた。オレをスカウトしたいという申し出だった。アメリカトップのレベルを誇るベイクラブに入団するなんて、思いもよらない展開に気持ちがぐらついた。

「……わかりました。両親と相談してから、お返事を差し上げます」

    ◆    ◆    ◆

 ブルズとの入団契約を交わしたのち、オレはいつもの公園にバルトを呼び出した。彼には自分の口から直接伝えたいと思ったからだ。

「アメリカに行っちゃうのか」

 スタジアムの前に腰掛けたバルトの、寂しさと不安の入り混じった表情を夕陽が朱色に染める。オレはふいに、以前聞いた緑川犬介の言葉を思い出していた。

『バルトってみんなを照らす太陽みたいだよね。あの明るさに救われたなぁ』

 そう、おまえは太陽で、オレはおまえに照らされて輝く月だ。そんなオレが太陽を曇らせようとしている。

「もっと強くなりたいんだ。それに……」

 特待生待遇で一切の費用がかからずにベイのトレーニングができるだけでなく、語学留学扱いとして認められることや、学費免除で向こうのレベルの高い学校に通えることがこれから先の進路にも役立つのだと話すと――この説明で両親も説得した――バルトは黙ってうなずいた。彼に追いつかれた屈辱が根底にあるのだとは知られたくない。勉強云々は隠れ蓑であり、自分を誤魔化す言い訳でもあった。

「行ってこいよ。オレも、もっともっと強くなるから」

 そう言ってバルトは涙目になりながら笑顔を作った。オレの大切な太陽――

 明日からはもう会えない――

 本当は、オレはおまえが――

 オレは衝動的に、バルトにキスをしていた。

 

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「……シ……シュウ?」

「あ……」

 自分のしでかしたことに驚き、思わず顔を背ける。鈍感なバルトもさすがにショックを受けたのか、咄嗟にオレの手首をつかんだ手も、声も震えていた。

「ごめん……それじゃ」

 背中を向けて走り去る。このまま暫くは顔を合わさないのだと思うと、寂しさよりも安堵感が勝った。バルトを忘れることはできなくとも、想いを遠ざけることはできる。そうだ、オレは過去に決別して自分を変えたいんだ。だからアメリカに渡るのだ、自分を変えるための、ニューヨークでの新しい生活が始まるのだ。

――この先バルトがどうなるのか、この時のオレには予測がつくはずもなかった。

〈To be continued〉