DOUJIN SPIRITS

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ベイバ P.S.君惑うことなかれ (C-Ver.❹)

 C-Ver.第四話です。アニメ神(終盤)と原作を踏まえての拡大(し過ぎ)解釈もいよいよクライマックスです。アニメでのセリフを拡大解釈のみならず、自分の観たかったストーリー設定によって変更した部分がありますので御了承ください。

 

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    第四話  終末のバトル 

 スネークピットのあるメキシコを出国、世界を股にかけたオレの行脚――ブレーダー狩りが始まった。アシュラムの指示によってボア・アルカセルという後輩が御供についたが、御供というよりは大方見張り役だろう。オレの動向をアシュラムのいる本部へ逐一報告しているに違いない。

 ブラジルではシャカとも対峙し、徹底的に叩きのめした。かつての幼馴染は目の前の挑戦者の正体には微塵も気づかずに膝を折った。一人、また一人、世界中のベイの実力者たちが敗北し、次々とオレの前にひれ伏すのだ。こんなにも愉快なことはない、有頂天になって当然だろう。

 そんな折、あの憎き天敵、白鷺城ルイからの「挑戦状」が届いた。もちろん紙ではなく動画だが、レッドアイとバトルしてやるから指定した日時に指定した場所へ来いというもので、そんな画像が上がっていたという連絡と共に、移動用のプライベートジェットが手配された。ルイに関するデータを採りたいのだろう、何とも手回しのいいことだが、どちらにせよこの誘いに乗らない手はない。

 二度も敗北し、屈辱にまみれる羽目になった相手。プライドをズタズタにされた挙句、価値観を歪めるきっかけになったルイとの再バトルに、オレの気持ちは高揚するとか、いつぞやの借りを返してやるといった思いよりも、ひたすら呪いと怨讐に満ちていた。と同時に、今の自分の実力ならば、ルイをひねり潰すことなど造作もないと考えていた。

 妙な邪魔が入ることを嫌ってか、よくぞこんな所を探し出したと思われるような、とある山中の辺鄙な場所でルイは待っていた。いくらか開けた土地に川が流れ、その畔には御丁寧にスタジアムが設置されている。ふと、向こうの崖の上でバルトや黄山たちがこちらを窺っているのがわかった。この場所まで即座に駆けつけることができるのはやはり、小紫が関係しているのではと推測すると、当人の姿も垣間見えた。いいだろう、彼らの目の前でルイを血祭りに上げて、さらなる恐怖と絶望を植え付けてやる。オレの全身を残忍な喜びが駆け巡った。

 「貴様がレッドアイか」

「そうだ」

「よくここまで来たな。褒めてやる」

 今からの展開を――己の敗北を想像するはずもなく、両の腕を組んだルイは相変わらずの高飛車な物言いで、こちらに視線を投げかけてきた。

 「自分のことをブレーダー狩りなどと名乗っているからには、それなりにオレを楽しませてくれるんだろうな」

 自信に満ちた、不敵で不遜な態度。彼はいつもそうだった。今からその鼻を明かすのかと思うと、ランチャーを握る指に、必要以上に力が入る。

「さあ。楽しむ間もなく終わるだろう、残念だったな」

「フハハハハ」

 山の奥深くまで響く高笑い、そんなルイの顔色が変わるのもあとわずか――

――のはず、だったのだが……そんな、バカなっ!

 しばしのぶつかり合いのあと、ロンギヌスに弾き飛ばされ、宙を舞ったスプリガンの風圧で仮面が真っ二つに割れた。死んだはずの男はそのデスマスクをあたりに晒す羽目になったのだ。身体中の血の気が引いていくのがわかる。

「……!」

「やはりな。おまえだと思っていたぞ、紅シュウ」

 ルイは満足気に笑いながら、レッドアイの正体など、とっくに看破していたらしき発言をした。

「レッドアイとは、これまた随分と小賢しい真似をしたものだな。まあ、何でもいい、いつでも戦ってやる。また負けにこい」

  またしても高笑いをするルイに背を向ける。驚愕と絶望で足元はふらつき、頭の中は真っ白だが、この場から立ち去る以外に、今はどんな選択肢があるというのだ。敗者は去るのみ、そうするしかないではないか。

「待って! 待ってよ、シュウ!」

 バルトが駆け寄ってきた。いつの間にか崖から降りて、すぐ近くで観戦していたようだ。オレの前に回り込み、行く手を塞ぐようにする。

『レッドアイはシュウ、おまえだったんだな! 紅シュウは死んだなんて嘘をついて、オレたちを騙してどういうつもりだ。おまえなんかもう、友達じゃないっ!』

 いっそ、そんなふうになじられ、憎まれた方がマシだ。あんな仕打ちをした友など、見放してくれて構わない。そうだ、オレのことなど放っておいてくれればいいんだ。なのにバルトは溢れる涙を拭おうともせずに、

「シュウ、おまえに会いたかった! 心配でずっと探していたんだ」

 などと言い、オレにとりすがってきた。

 会いたかった、なんて――やめてくれ、バルト。涙など見せないでくれ。こんな姿に身をやつしてまでブレーダーの頂点を極めたかったのに、オレはまたしてもルイに敗れたのだから。

 人が負の感情をぶつける相手に選ぶのは近しい者が大半だ。惨めな負けを周囲に晒したことと、己の不甲斐なさに対する苛立ちはそのまま愛しい者への攻撃に向けられた。

「オレの前から消えろ!」

 青ざめた顔で立ちすくむバルトの脇をすり抜けて川の流れに身を任せる。八つ当たりをしている自覚は充分すぎるぐらいにあった。

「シュウー、なんでだよー!」

  悲痛な叫びが谷間にこだました。

    ◆    ◆    ◆

  スネークピットに戻ると「えらく派手に負けたものだな」などと嫌味を言うゴールドアイを無視し、真っ直ぐにアシュラムの元へ向かった。このままではどうあがいても勝てない。ルイを倒すための、最強のベイを手に入れなければならない。

 すると、SF映画でしか見たことのないようなカプセルマシンに入るよう促された。その中でイメージするだけで自分のためのベイが創られるという。到底信じられないが、やがてのちに、スネークピットの持つ科学力は相当のものだと思い知らされる羽目になった。

 身体中にコードをつけられ、生ぬるい液体に浸かる。目を閉じると、夢とも現実の回想ともつかない映像が脳裏に浮かんだ。あれは……バルト――

 ルイやその他の誰かとのバトルの場面でもない、家族や学校の仲間との日々でもない、バルトと過ごす幸せな日常。想いは全て切り捨てたと思っていたのに、オレの深層心理は、そこではまだ彼を好きだと、愛しているというのか。

『アオイばるとヲ、アイスルノハ、オワリニシロ』

 マシンが脳に直接語りかけてくる。誰かに向ける愛情などという、生半可な気持ちを抱いたままでは最強になれるはずなどない、そういうことか。

 『アオイばるとハ、テキダ。ヤツヲ、タオセ。タオサナクテハ、ナラナイアイテダ』

 ルイもフリーも、バルトも倒すべき『敵』なのだ。このマシンはオレにもっと非情になれと、バルトへの愛情の、最後のひとかけらも残すなと忠告しているのだとわかった。

――三日三晩、いや、それ以上の時間をかけて、オレは自分と戦い続けた。バルトの背中を躊躇なく切りつける程にまで非情になり、そして完成したベイの名は「スプリガンレクイエム」。レクイエム――鎮魂歌とはどうだ。すべてのベイをあの世に送ってやれということか、面白い。今度こそ、ルイを完膚なきまでに叩きのめして、あの世に送り届けてやる。

    ◆    ◆    ◆

 アシュラム――ギルデンの計らいによって、ワールドリーグでの個人戦が開催されることになり、オレはレッドアイの名で、また、ボアやゴールドアイことノーマン・ターバーもエントリーされていた。もちろんルイも、フリーやバルトの名前も挙がっている。そこで順当に勝ち進んだオレにとっては準決勝がルイへのリベンジのチャンスとなった。

「さて、この短期間でどれほど腕を上げたのか。楽しみだな、紅シュウ」

 レッドアイと紹介されているのに、わざわざその名前を呼ぶとは。相変わらずナメた態度のルイだが、さすがの彼もスプリガンレクイエムの前では、不遜な態度を変えざるを得なかった。

 砕け散ったロンギヌス、その破壊はルイ自身を「あの世へ送った」ようなものだった。動揺を見せるルイの姿に、オレは「溜飲が下がる」などといった表現では物足りないくらいに満足感を得た。ついに、ついに憎きルイを葬ったのだ。簡単には立ち直れないほどのショックを与えてやったのだ。

 バラバラになったロンギヌスを手にして膝をついたルイに、

「おまえにもそのベイにも価値はない、敗者だ」

 そう言い放った時、オレは全身の血が凍るほどの冷たい喜びを感じた。念願の、ルイを血祭りに上げた瞬間だった。

 さて、もう一方の準決勝戦、大方の予想を覆し、フリーを破ったのはバルトだった。フリーに全力を出させたということは、バルトの実力は相当のところまで上がっているとわかるが、それでもオレは彼に負けるつもりなど毛頭なかった。

 訪れた決勝戦の日、試合前にバルトはオレを真っ直ぐに見据えると「シュウ、おまえは間違っている」と、咎めるように言い放った。

「負けたら、ベイにもブレーダーにも価値がないなんて、そんなのおかしいだろ!」

「オレは間違ってなどいないし、おかしくもない。負けは負けだ。敗者には何の価値もない。そして最強ブレーダーはこのオレ、スプリガンだ」

 呆気に取られた顔でこちらを見るバルトに、オレは畳みかけた。

「紅シュウは死んだと言ったはずだ」

「……わかったよ」

 バルトは何かを決意したかのように、厳しい表情になった。

「オレの知っているシュウはもう、この世にはいないんだな。ならばスプリガン、オレと勝負だ!」

 ランチャーを構えたバルトの身体から青い炎が立ち昇り、その向こうにヴァルキリーの姿が見えた。

 バースト、バースト、バースト……同時バーストを繰り返すだけで勝負は一向につかない。腕は痺れ、指先の感覚がなくなっていく。

「シュウ、オレは……おまえが目標だった。おまえがいたから強くなれたんだ」

「そうであったとしても、オレはおまえに負けるわけにはいかない」

「オレだって負けない。オレたちは、オレとヴァルキリーは力を合わせておまえに勝つ! な、そうだろう、相棒」

 バルトがヴァルキリーに語りかけると、青い光がきらめいた。ヴァルキリーがバルトの呼びかけに応えているのだ。

 ならばこちらもと、スプリガンを握り直す。だが、そこでオレは愕然とした。熱さが伝わってこない。オレ自身がスプリガンを名乗ったせいで、スプリガンはオレの気持ちに応えなくなってしまったというのか。

「そんな……まさか」

 バルトとヴァルキリーを繋ぐもの、それは仲間、相棒という絆。一緒に戦い、勝てば喜び、負ければ次は頑張ろうと励まし合う。そこには、共にベイを楽しむ喜びがある。信頼と、互いを慈しむ愛がある。だが、勝敗のみにこだわり、勝つことを至上とし、あらゆる愛情を切り捨ててしまったオレはスプリガンとの絆さえも失っていたと、この場面で、今になって気づいた。故にスプリガンはこんなオレになど力を貸してはくれない、見放されてしまったのだと――

「……バーストフィニッシュ、ポイント四対二! よって優勝は蒼井バルト!」

 大歓声の中、体力の限界に達していたオレも、バルトの身体もその場に崩れ落ちた。意識が遠のいてゆく中、瞼の裏に赤い影がぼんやりと映った。

「スプリガン?」

『おまえの名前はレッドアイでも、ましてやスプリガンでもない、紅シュウだ。シュウ、もう一度ワタシと一緒に戦う意思はあるか?』

「一緒に……本当にいいのか?」

『おまえとワタシの絆、おまえと仲間の絆を取り戻そう。自分の間違いに気づいたのなら、ここからやり直せばいい』

 とめどなく涙が頬を伝う。おまえはこんなオレを許してくれると言うのか……

 いや、スプリガンはそうだとしても、バルトは決してオレを許さないだろう。この身を案じ続けていた彼の好意を無にするどころか、暴言を吐きまくったのだから当然だ。オレは自分の最愛の人を最悪の形で傷つけてしまった――

 近づく足音の方に目を向けると、傍らにバルトが立っていた。

「シュウ、楽しかった!」

 そう言いながら、彼は右手を差し出してきた。

「……えっ?」

「このバトル、オレはめっちゃ楽しかった。おまえはどうだった?」

「ああ……」

 言葉が上手く出てこない。

 腕が思うように動かないオレを気遣い、バルトはこの身体を支えてくれた。

「いつか決勝で戦おう、って約束、やっと果たすことが出来て良かった。またやろうな、バトル」

 そう言って嬉しそうな笑顔を向けるバルトに、何も答えられずに目を伏せる。こんなにも彼が間近にいて、心臓の音が聞こえはしまいかと思うほどに高鳴っていた。

「バルト、ありがとう」

「えっ、何?」

 熱戦を讃える会場の歓声はますます大きくなり、互いの言葉すらも聞き取れなくなっていたが、それでいい。

「ずっとおまえを愛している」――――

〈To be continued〉