DOUJIN SPIRITS

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爆ベイ GBCⅡ前夜祭

※今回の投稿においての書き下ろし作です。原作(RISING)の現在の展開を元にしていますが、途中の記述にアニメGレボが混在しています。御承知おきください。

 

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  第二回ベイブレード世界選手権(G・B・CⅡ)開催記念
   ― ぱぁーっと騒ごうぜ! オレたちの前夜祭 ―


 G・B・CⅡのファーストステージがいよいよ開幕、各地区の予選を勝ち抜いてきたブレーダーたちがロシア連邦モスクワの地に集結した。
 今日の予定は開会式のみ、それも終了したとあって緊張している者はそれほどおらず、関係者に用意された宿泊先のひとつである、モスクワでも高級とされるホテルのロビーに於いては久しぶりの再会に、旧交を温める場面がそこかしこに繰り広げられている。
 だが、即バトル開始だと思い込んでいた我らが主人公・木ノ宮タカオは出鼻をくじかれたのか、ロビーに設置されたソファーに沈んでいた。他のBBAメンバーも思い思いの場所でくつろいでいる。長旅の疲れが出たらしく、皇大地などはいびきをかいて寝入っていた。
「だから、ちゃんと予定を確認するよう、出発前に忠告したじゃないですか」
 タカオの隣に腰かけたメンテナンス担当兼マネージャー的存在のキョウジュはそう言いながら、手荷物の中からいつものノートパソコンを取り出した。さらに電源を入れて画面のチェックを始めたのだが、
「さて明日の第一試合は……あれ?」
 慌てた様子のキョウジュに、みんなの不審そうな視線が向けられる。
「か、監督!」
 キョウジュはパソコンを抱えたまま、BBA監督の木ノ宮仁の元に駆け寄った。
「ん、どうした?」
「ここ、見てください。今夜、前夜祭があるって載って……」
「ああ、そうだけど」
 前夜祭とは世界から集まった選手たちをねぎらうために大会本部が用意した、ホテルの大宴会場でのレセプションだ。何を騒いでいるのかと言わんばかりの、仁の態度を見たキョウジュは甲高い声をさらに高くして詰め寄った。
「前夜祭ではチーム毎に一芸を披露する、こんなこと聞いていませんけど?」
 仁は「えっ?」と言い、ひったくるようにしてキョウジュのパソコンを覗き込んだ。
「そ、そんな……まさか」
「知らなかったんですか?」
「あ、ああ……あっ、もしかしたら?」
 仁は急いでスマホを取り出した。どうやら大会本部からメールが入っていたのに気づかなかったらしい。兄弟揃っての粗忽者というわけだが、二人の緊迫した様子を見た水原マックスが口を挟んだ。
「そう言えばママが『サイズが大きいからチアガールの衣裳を調達するのが大変だった』って話していたヨ」
「ということは、USAオールスターズの出し物は『チアガール』……」
 人気スポーツのアメリカンフットボールと、その応援団のチアガールはアメリカ名物と言ってもいい。マイケルたちの企画はチアガールの扮装と察することができる。
「つまり、どのチームも準備をしてきていると」
「ウチは何も用意していませんよ、どうするんですか?」
 焦りを見せるキョウジュ、考え込む仁の姿に不安を感じたタカオたちは二人の周りに集まった。
「そんな、オレたちだけ何もやらないっていうわけにはいかないだろう? 戦わずして負けるなんて、チャンピオンの名がすたるぜ」
「いや、ベイで勝てばいいのであって、何も芸で勝負……」
 だが消極的な意見は即座に却下された。レセプションまであと数時間、とにかく今から準備できるものを、とその場で緊急会議が始まった。元チームメイトのところへ聞き込みに行って戻った金李(コン・レイ)が「バイフーズは『中国雑技団』をやるらしい」と報告すると、
「やはりそうか。どこも自国をイメージする内容のようだな」
「では、我々は日本のイメージに即するべきということですね」
 それも、諸外国から見た日本のイメージだ。富士山、芸者、侍(ハラキリ)、忍者……
「何をやるにしろ、衣裳が調達できないと……今の服装ではどうにもならないからな」
「日本国内なら何とかなったけど、モスクワじゃあ売っているかどうか」
「でもさ、日本のサブカルチャーは今や全世界に広がっているんだろう? 諦めるには早いよ。忍者の衣裳はNAR〇TOコスプレ用の物かもしれないけど」
「それならそれで、クールジャパンをアピールすればいいんじゃない?」
 そこで今度はマックスがボーグ0チームの元に赴き、日本の物を扱う『ヲタクショップ』みたいな店はないかと訊ねた。幸い、イワンがそれらしい店を知っていて案内図を描いてくれたので、BBAメンバーは仁のポケットマネーを手に(気づかずにいた責任を取らされたのは言うまでもない)モスクワの街へ繰り出すことになった。
「ああ、キョウジュはここでシナリオを考えていてくれ。どんな衣裳があるかわからないから、全部に対応できるように何種類か頼む」
    ◇    ◇    ◇
 モスクワの『ヲタクショップ』は思いの外、品揃えが充実しており、黒装束の忍者の衣裳(NA〇UTOのコスプレ用もあった)が三着と小物、侍の着物が一着に(よく見るとだんだら模様の新選組の羽織だった)女性用の着物一着を購入することができた。これらのグッズがあれば、とりあえずは格好がつく。
 ひと安心したタカオたちは仁に用意された部屋に場所を移して会議を再開した。
「さあキョウジュ、この衣裳でどういう筋書きにする?」
「そうですね……練習する時間はほとんどありませんし、ここは単純明快に、悪い忍者に襲われる姫と、それを助ける新選組のお侍というストーリーでどうでしょうか?」
「そうだな、それでいこう」
 さて、問題なのは配役である。剣道をやっているから適任だと、タカオは侍役を主張したが却下、満場一致で姫役にされてしまった。
「えーっ、なんでだよ?」
「時間がないんだ、文句を言うな。それで侍は……」
 仁は全員の顔を見回した。そもそもこんな茶番になど付き合わないタイプだが、タカオのお相手とあらば絶対に引き受けるはず。
「カイだ。レイとマックス、大地は忍者」
 忍者を演じられるとあって、大地は上機嫌だが、あとの二人は複雑そうな顔をした。
「それでは、ワタシは効果音などの裏方をやりますね」
 そう言うと、キョウジュは五人に対して演技指導を始めた。本番まで残り二時間。
    ◇    ◇    ◇
 普段は披露宴などに使われる大宴会場に向かったのは開始時刻十分前のこと。アイボリーの壁、濃紺の絨毯が敷き詰められた床、天井には豪奢なシャンデリア。会場の雰囲気は高級感が溢れ、如何に、この大会に多額の費用がかけられているのかが判る。
 白いクロスのかかった大きな円卓が十卓ほど、中央には美しい花が飾られ、規則正しく並んだ銀食器には水色のナフキンが添えられている。それぞれのチーム毎に着席していると、レセプション開始の時刻になった。
 司会はブレーダーDJ、開会の言葉はやはり、イリーナ・ゴルベヴァ理事長である。
「皆さん、我がロシアへようこそ」
 前方の舞台に立った女史が遠路はるばる集まった世界のブレーダーたちをねぎらったあと、豪華な食事でのもてなしが始まった。さっきもピロシキを食べまくっていたくせに、レイと大地の食いしん坊万歳組は早速御馳走にかぶりついている。
「……よく食うよなぁ」
 物凄い勢いで大皿を平らげる二人の姿を見ると、却って食欲が減退する。タカオは小さく溜息をついた。すぐにバトルをやると思っていたところが気勢をそがれ、さらにはわけのわからない隠し芸をやらされる羽目になるなんて。しかも姫の役だとは、他のチームの連中にからかわれること必至だ。チャンピオンとして示しがつかない。
「さて、宴もたけなわではございますが……」
 日本の宴会の口上が世界でも通じるものなのか、そいつを平然と口にしたブレーダーDJは「本日のお楽しみ、各チームによる余興を始めます。それではトップバッター、USAオールスターズの皆さん、よろしくお願いします!」と高らかに声を上げた。
 すると、日本では昭和に流行った世界的ヒット曲『ヤングマン』のイントロが流れ、NFLの人気チームであるダラス・カウボーイズのユニフォームを着たエミリーが舞台に現れた。続いて、白のノースリーブのトップス、赤いミニプリーツスカート、手にはポンポンというチアガールスタイルのマイケル、エディ、スティーブ、リックが登場したので、客席がドッと沸いた。
「Young man, there’s no need to feel down♪」
 軽快な音楽(もちろん英語版)に合わせてエミリーがボールを投げたりトライを決めたりとパフォーマンスを繰り広げ、その背後でむさくるしい四人の男たちが舞い踊る。日本の「男子がメイド喫茶をやる」ノリに似ている。どこの国でも考えることは同じだ。
 腹を抱えて笑う大地たち、その時、タカオの横でカイが「Y.M.C.A.とはキリスト青年会の略とされているが、ゲイを示唆するスラングでもある」と呟いた。
「えっ、なんでそんなこと知ってんだよ?」
「有名な話だ」
「初耳なんだけど」
 マイケルたちはわかっていて選曲したのだろうか、いささか心配になる。
 大いにウケたアメリカ組の出し物は終了、続いてはFサングレ+Mチームだが、元々パフォーマンスをやっていた連中であり、一輪車乗りなどの曲芸を難なくこなして拍手喝采を浴びた。
 三番手のマジェスティック4はヨーロッパのお坊ちゃま集団らしく、気品溢れるピアノ四重奏を披露、観客たちはスタンディングオベーションで彼らの素晴らしさを讃えたが、そんな様子を見たタカオの不安はますます増加した。
「どのチームも凄いんだけど……オレら、あの内容でいいのかな?」
「今さらどうしようもないだろう。たかが余興だ、肝心なのは明日からの試合。そんなことぐらいわからないでどうする」
「わかってるよ、でも」
 お次はバイフーズの『中国雑技団』だ。身の軽いキキがところ狭しと飛び跳ねている。マオも頑張ってはいるが、ガオウ(パンダの着ぐるみ着用)とライ(マントヒヒの着ぐるみ着用)は専ら引き立て役で、雑技団と呼ぶには人数の少ないところが厳しい。
 それでもタカオとしてはいくらかホッとした。あれならオレたちの茶番な時代劇とどっこいどっこいだと思ったからだ。
「……バイフーズの皆さん、ありがとうございました。それでは次に前大会で優勝のBBAチーム、準備をよろしくお願いします」
    ◇    ◇    ◇
 会場からいったん廊下へ、次に新郎新婦の控室として使われる部屋に入って着替えを始める。ピンクの生地に桜の模様が入った着物を着付けたあとは髪を結い直して――長髪も姫役に選ばれたポイントである――それらしくする。数少ない女子であるジュリアとエミリーが化粧を手伝ってくれた。
「きゃー、木ノ宮くん、プリティ~」
 女子たちの黄色い声に、新選組スタイルのカイがこちらを見てハッと目を見張ったあと、ふいと顔を背けた。タカオの女装に動揺したらしい。これはからかうチャンスだ。
「カイ、どう? アタシ、可愛い?」
「……先に行くぞ」
 照れているとわかると、いくらかの優越感を感じる。
 舞台の袖には既に忍者三人組がスタンバイしていた。役者がそろったところで、ブレーダーDJが「それではBBAチーム、タイトルは『びびえ組血風録』です」と紹介した。
「なんだよ、その大袈裟なタイトル」
「新選組のドラマから拝借したようだな」
「キョウジュの趣味らしいヨ」
 そこで鳴り響くのは柝の音、茶番劇の幕開けだ。
「時は文久四年、京の都では謎の忍者の一味が夜な夜な悪事を働いていた……」
 キョウジュが講談師の口調で語りを始める。さあ、出番だ。タカオは風呂敷包みを手に、舞台の中央へ向かって歩き始めた。
「すっかり遅くなってしまったわ。早く帰らなきゃ」
 すると、タカオ姫の登場に、客席はやんややんやの大盛り上がり。前チャンピオンが和風美少女として現れたのだから無理もない。
「そこの女!」
「な、何者?」
「手にある物を渡せ!」
 さっそく敵キャラ忍者が現れた。口火を切った一番のチビがこれまた幼い声で脅しをかけたのがウケて、緊迫した場面にも関わらず笑いが起きた。まるでコントである。
「無礼な! これは大切な預かりもの、渡すわけにはいかねー、じゃない、まいりませぬ」
「いいからボ、オレたちによこすネー」
 金髪の忍者が風呂敷包みを奪おうとするが、どこか遠慮がちでサマにならない。
「抵抗するならやってしまえ!」
 三人目、頭巾の下から髪の毛が尻尾のように生えている忍者がクナイ(こちらもヲタクショップで購入)を取り出して切りつけてきた。
「助けて、誰か!」
 その時「ちゃらら~ん♪」と流れてきた効果音はなぜか『必殺のテーマ』。音楽に合わせて反対側の袖からだんだら模様の羽織が現れた。腰に差した刀は(さすがにヲタクショップでは手に入らず)長めのビニール管に段ボールを貼りつけて作ったキョウジュの自信作である。
「そこの不届き者、成敗してくれる!」
 思いがけない人物が、こんな茶番劇など絶対にやりそうにない彼がノリノリの様子で現れたので、観客は皆、口をあんぐりと開けている。滅多なことでは動揺しないユーリが椅子から転げ落ちそうになり、ボリスに助けられている様子が舞台から見えた。
「なんだと? 貴様から血祭りに上げてやる!」
 三人の忍者対新選組の殺陣が始まった。バックミュージックは『暴れん〇将軍』に変わり、舞台を盛り上げるはずだったのだが……
「うっ、オ、オイラ、腹がっ!」
「オレもヤバい」
 突然、大地とレイがトイレを目指して一目散に走り出した。どうやらさっきの食べ過ぎで腹を壊したらしい。残されたマックスは忍者仲間二人が舞台を降りてしまったのでオロオロしていたが、一人では間がもたないと判断、「お、おぼえていろヨ」という謎の捨て台詞を残して引っ込んでしまった。
「……なんだ、これ」
 一番の見せ場であるチャンバラでしばらく場を繋ぐ予定だったのに、いきなりの終了で唖然としたタカオだが、シーンと静まり返ってしまった周囲の気配に、ふと我に返った。このままではマズい、何とか続けなくてはならない。とりあえずラストのシーンを演じて、エンディングまで持っていこう。
「お、お侍様、お助けいただきありがとうございました」
 カイのところに駆け寄るタカオ、だが、これから活躍という時に殺陣が終ってしまい、戸惑うカイは次の台詞が飛んでしまったらしい。
「礼には及ばない……今月今夜のこの月を」
「カイ、それは『金色夜叉』ですよ」
 脚本担当が幕の後ろで、必死でバツを作っている。簡単な内容でと言いつつ、よせばいいのに欲を出して、夏目漱石の「I love you」のエピソードなどという、文学的な要素を取り入れようとしたのが間違いの元だ。
「ああ、いや、それにつけても今宵の月は美しい」
「あなた様と見る月は特に」
 これはいわゆるオッケーの合図。すると、タカオの台詞を聞いたとたんに、カイはここぞとばかりに手を握ってきた。
「では、拙者と契りを結んでいただこう」
「え……ええっ? そんなの台本になかったじゃん」
 演技を忘れて後退るタカオに迫るカイ、思いがけない展開に客席はまたしても大騒ぎだ。
「やっぱり? あいつら怪しいと思ってたんだよ」
「この前の決勝戦、凄かったもんな。大会そっちのけで二人の世界だったし」
「宇宙まで行っちまったアレだろ? あれでデキてないっていう方が無理だよな」
「いゃ~ん、アタシの思ったとおりね。今度のコミコンでカイタカ本出そうと思ってたところなの。アメリカでも爆ベイは大人気なのよ」
「えーっ、そうなの? アタシにも読ませてー」
 ついには「コングラチュレーション!」の大合唱。呆然とするタカオに、カイは「これで全世界のブレーダー公認だな」と嬉しそうに言った。
「なんでや……」
 ――御当地・ボーグ0チームによる『コサックダンス』(ミュージックはテトリスのアレ)がラストを飾り、前夜祭の夜はこうして更けていった。
                            〈おしまい〉