DOUJIN SPIRITS

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ベイバ P.S.君惑うことなかれ (C-Ver.❸)

 C-Ver.第三話です。アニメ神(中盤)と原作を踏まえての、さらなる拡大(し過ぎ)解釈です。闇堕ちMAXでなかなかキツいですが、あとひと踏ん張り。

 

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    第三話  暗黒のラビリンス

「……やはり、敵わなかったか」

 フリーが立ち去ったあと、膝をついてスタジアムの前から動けずにいたオレを見て、ギルデンはわざとらしく大きな溜め息をついた。

「もう一度チャンスをくれ。次は絶対に」

「次はない」

 冷たく突き放すように言ったあと、彼は手にしていた怪しげな仮面を被った。なぜ、そんなものを被るのか不審に思っていると、

「蒼井バルト、といったな」

 その名前を出されてギクリとする。

「相当腕を上げているようだ。フリーを引き抜かれても、BCソルが優勝の希望を抱いていられるのは彼の存在があるからだとも聞いている。フリーがここへ来る気になった理由もそうだ。ヤツはバルトを信頼し、クラブの未来を彼に賭けていた」

 床をかきむしると、キキーッとイヤな音がした。

「バルトとは親友同士だと聞いたが、友とはいえ自分より強くなられるのは我慢できんだろう?」

「……そんなことはない。バルトは友達だ」

「その甘さがおまえの弱さだ」

 甘い、だと? オレはそんなに甘いのか? だから弱い、ルイにもフリーにも勝てない、そういうことなのか? バルトへの想いや様々な感情を吹っ切れない限り、これ以上強くはなれない、そうなのだろうか……

「ついて来たまえ」

 ギルデンはそう言うと、別室に移動するよう促した。そこは例の応接室の隣にある、オーナー以外は誰も出入りすることを許されていない、『開かずの間』とまで呼ばれている部屋だった。 

 薄暗い室内はさほど広くはなく、漂う冷気が肌を刺す。部屋の中央にテーブルがあり、その上にはギルデンがつけているものと似たような仮面が置かれていた。

「私はこのクラブとは別に、ある組織を立ち上げた。ここが表舞台、日の当たる場所ならば、そちらは闇。密かに特訓を行なう場所だが、まあ、秘密結社のようなものと考えてもらえればいい」

 秘密結社は『スネークピット』という名称がつけられているらしい。メキシコの奥地にあり、多くのブレーダーがクラブでの練習とは桁違いの猛特訓を受けているようだ。そこでオレは以前耳にした、行方不明になったチームメイトたちの噂を思い出した。もしかしたら、彼らはその場所にいるのではないか。さらなる高みを目指すために――

「 最強のブレーダー、最強のベイを造り出すのが『スネークピット』の目的であり、存在意義でもある。ただし、そこに加わるためには……」

 ギルデンは机上の仮面を指さした。

「甘さを捨て、強くなる覚悟があるならこの仮面をつけるがいい。これは覚悟の証。友も心もすべて捨て去る覚悟だ」

 友も……心も……バルトの笑顔が思い浮かぶ。オレは必死でその面影を打ち消した。ルイに敗れ、今またフリーにも敗れた、この上なく情けない自分。惨めさを引きずったまま、このままでいられるはずはない。今よりずっと強くならなければベイを続ける意味などない。目指すものはただひとつ、最強であること――

「仮面をつけて『スネークピット』に来い。私もギルデンではなくアシュラムという名で仮面を被っている。『スネークピット』では顔も、今の名前すらも無意味だからだ。おまえも紅シュウという名を捨てろ。今からおまえはレッドアイだ」

 レッドアイ……そう、オレは……

 紅シュウは、死んだ。

    ◆    ◆    ◆

 その日のうちに、オレはメキシコへと飛んだ。学校へは休学届が提出されたらしいが家族への連絡など、余計な真似はなされないように取り計らわれた。全ては秘密裡のうちに運ばれたのだ。

 オレが姿を見せなくなったことに対して、ブルズのチームメイトたちが、ひいては世界のブレーダーたちがどう反応するのか、そんなことを考える余裕もなく、あっという間に『秘密結社』へと放り込まれる。

 スネークピット――古代遺跡風の外観と中身は正反対であり、その近代的な施設には相当の設備費がかかっているとみた。ブルズに装備されているものとは比べものにならないほどの、高価なマシンを揃えた中央のトレーニングルームでは、大勢のブレーダーたちがめいめいに汗を流している。

  彼らに紹介などされるはずもなく――顔も名前も無意味だからだ――オレはここでのトレーニングを開始した。また、定期的に行なわれる勝ち抜きバトルでは並み居る『先輩方』を打ち倒し、瞬く間に上位層へとのぼりつめた。『レッドアイ』という新しい名前は組織中にたちまち響き渡った。

 ここではひたすら勝つことのみを欲した。人の心を切り捨てたこの身はベイを操るだけの機械と化しており、それもやがて愉快にすら思えてきた。そうだ、こうして『バトルマシン』であることに徹していれば最強が手に入る。最強の存在になってルイもフリーも、バルトも叩きのめす。オレの前に立ちはだかる者はもう誰もいない、そうなる日は遠くない。

    ◆    ◆    ◆

「侵入者だ!」

 建物内に警報音が鳴り響き、随所に設置された赤と黄色のランプがくるくると回って不穏な雰囲気を煽る。

 屋外の監視カメラが敷地内への不法侵入者を捉えたらしい。騒ぎを見守っていると、アシュラムの右腕と呼ばれている、側近のゴールドアイがオレの傍にやって来て、遠回しに嫌味な言葉を投げつけた。

「レッドアイ、キミのお友達が遊びに来たようだが、ここは同窓会会場ではないのでね。速やかにお引き取りいただくように」

 オレは無言でゴールドアイをねめつけると、彼に背を向けて歩き始めた。

 建物の屋上から見下ろした「侵入者という名のお友達」は黄山乱太郎と小紫ワキヤ、黒神ダイナ 、オウムをつれた新しい仲間らしき少年、そして――バルトだった。森の奥深くにこんなにも巨大な建造物があるとは思わず、驚いた様子でキョロキョロと辺りを見回している。極秘とされているこの場所まで辿り着けたのは小紫の情報網だろうと察しもついた。そうでなければ、こうもやすやすとやって来れるはずはない。

 久しぶりに見るバルトの姿だが、今のオレには何の感慨も与えなかった。あんなに好きだと思っていたのに――大きな瞳も、よくしゃべる口元も、小柄で元気の溢れる姿も、何もかもが嫌悪の対象でしか……ない――

「立ち入るな。ここはおまえたちの来る場所ではない、帰れ」と告げると、十の瞳が驚愕したようにこちらを見上げた。仮面をつけているとはいえ、髪の色や声音で気づくかもしれないと危惧したが、その心配は杞憂に終わりそうだ。

「なあ、ここにシュウがいるだろ? 紅シュウってやつだ、会いに来たんだ」

 進み出たバルトがそう訴えてきた。やはり、オレを探しに来たのか。すると、入口前、真正面の地面(土ではなく石が敷いてある)からスタジアムがせり出してきた。一戦交えろという合図のようだ、いいだろう。今のオレとの実力差を思い知らせてやる。

「何かを得たければ戦って勝ち取れ」

――バルトは呆気なく敗れた。あまりの手応えのなさに腹が立つほどだ。こんなやつの追従を懼れて、オレは心まで捨てたというのか。バルトに対して情けなく思う以上に、勝手に自分を追い詰めていたという意識がオレを苛立たせた。

「去れ。敗者に価値はない」

「待ってくれ! スプリガンはシュウのベイだ、シュウに返せ!」

 スプリガンの所有者はずっとこのオレだ。ますます苛立ちがこみ上げてくる。中へ戻ろうとした時、スピーカーを通してアシュラムの声が響いてきた。

「蒼井バルト、おまえにチャンスを与えよう」

 アシュラムはスネークピット側のブレーダーたちとの対戦をバルトに持ち掛けてきた。勝てばもう一度オレと戦わせるとも約束した。

 追い返せとゴールドアイは言ったではないか。勝手な真似を、とも思ったが、すぐにその思惑に気づいた。恐らくバルトたちの実力を測りたい、データを取りたいのだろう。何にせよ、ここは彼の指示に従うしかない。踵を返すと、アシュラムの提案に応じたバルトたちはオレに続いて中へ入ってきた。

 彼らの持つベイに対峙するブラック系のベイを持つブレーダーたちと、用意されたステージにて各自対戦するというこの戦い、一回戦はイエローアイ――こいつがブルズから消えたアフロヘアーの男ということはあとで知った――の持つブラックラグナルクと元祖ラグナルクの持ち主・黄山との対戦で、敗れた黄山の足元が突然開き、下のホールへと落ちそうになった。そんなこともあって、いくらか怯えを見せながらも、バルトたちは果敢に突き進んだ。

 スネークピット側のブレーダーであっても「敗者は去れ」という方針の元、負ければ容赦なく落とされる。 姿を消した相手に動揺するバルトたちの様子が仕掛けられたカメラからの映像で、指令室のスクリーンに大写しになる。

 なに、あれは避難訓練で使ったことのある救助袋のようになっていて、そのまま外に放り出されるだけなのだが、そうと知らなければ恐怖の対象になるのは無理もない。もっとも、用意された五人の実力は大したレベルではなく、それもアシュラムの算段の内ではなかったかと思うが、残りのメンバーは勝ち進んでオレの待つステージまでやって来た。

「オレたちが勝ったらシュウの居場所を教えろ。そんでもってスプリガンも返してもらうからな!」

 この期に及んで強気の発言をするバルトに、苛立ちよりも憐憫の情が湧いた。そうだ、おまえたちはオレには勝てない、足元になど到底及ばない。

「全員でかかってこい」

 ナメやがって、と彼らは憤慨しながらランチャーを構えた。が、実力の差が天と地ほど開いているのだと、わからせるのにはさほどの時間もかからなかった。

 バーストしたヴァルキリーをようやく掴むと、膝をついたバルトがこちらを見上げ、震える声で言った。 

「 ……頼む、シュウに会わせてくれ。大切な……友達なんだ」

「…………!」

  涙を流して懇願するバルトに、古傷が痛むような感覚を覚えた。だが、それも一瞬のことだった。

(友達……そうだ、おまえにとってオレは友でしかなかった)

「紅シュウは死んだ」

 オレは敢えて彼にとどめをさした。この場所で『友』が生きているという希望を打ち砕くために。

 バルトの表情が凍りついた。一瞬にして絶望が彼を支配したとわかった。

 それを見て、かつて愛していた者をいたぶるという、残忍な喜びがオレの全身を駆け巡り、高揚感さえ感じられた。

「そんな……」

 絶句し、打ちのめされた姿が目の前から消えた。さらば、バルト。

    ◆    ◆    ◆

  これでオレの惑いは全て切り捨てられた。もう邪魔をする者は誰もいない。あとは最強への道を真っ直ぐに突き進むだけだ――本当は真っ直ぐどころか、暗闇の迷路を彷徨っているだけなのだと、わかるはずもなく。

 その後、オレはアシュラムの後押しを受けて、世界中のブレーダーたちを打ち破るため、破壊と破滅の行脚に出た。さあ、ルイ、フリー、今からおまえたちを叩き潰してやる。首を洗って待っていろ。

 〈To be continued〉