DOUJIN SPIRITS

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爆ベイ 続・蒼い夜❸(最終章)

    第三章
「怪我はもういいのか?」
「ああ。リハビリも昨日で終わった」
「それじゃあ、思いっきりバトルできるな。よかった、よかった」
 そう言って微笑みかけると、カイはわずかに照れたような素振りで、草叢に身体を預けた。並んで座っていたタカオも同じように、その場に寝転がる。
 見上げた空はどこまでも青く、雲はのんびりと浮かんでいる。数ヶ月ほど前には街が壊滅状態にあったなんて信じられないほどに平和だ。
 河原に建てられた、戦後のバラック小屋のようなBBA本部前ではマックスたちが子供らにベイの指導をしているが、その場をこっそりと抜けて、ここの丘までやって来た。二人きりになりたかったからだ。
「全治三週間だっけ? えっ、もっと長かった? 聞かされた時にはビビッたよ。よくそんな状態で、ずっと会場にいたよな」
「医者には止められたが、無理を言って残った。おまえのバトルを見届けずに入院するわけにはいかないからな」
「そっか」
 わかってはいたが、改めて言われると、嬉しくて気持ちが温かくなる。
「それにしてもカイ、おまえはホント、心配のタネばかり増やしてくれるよな。入院もそうだけど、VEGA戦の前もなかなか現れなかったし。五人目のミスターX、ウチのじっちゃん出すところだったんだぜ」
「心配してくれと頼んではいない」
「あっ、そー」
 憎たらしい物言いだ。唇を尖らせたタカオが「じゃあ、オレが入院しても、何とも思わないんだな?」と訊いても、返事はない。
「シカトかよ。それなら、こいつはどうだ。だったら今、オレがこの世からいなくなったらどうする?」
 以前にゼオから聞かされた『縁起の悪い話』、それをぶつけてみると、カイはこちらを向いて、たちまち血相を変えた。
「なんだと? もう一度言ってみろ」
「いや、だから、オレがこの世から……」
「そんな言葉、二度と口にするなっ!」
「……もう一度言えって言ったの、おまえじゃん」
 なんとまあ、扱いにくい男だろう。今に始まったことではないが。
 タカオの口答えなど耳に入らないらしく、カイはうろたえてかぶりを振った。どんな時でも、冷静で表情を崩さない彼がここまで狼狽することは滅多になかった。
「……おまえがいなくなったら、オレは」
 カイは持ち前の凄味のある声で、呻くように呟いた。
「おまえを殺ったヤツを殺す」
「ああ、いや、殺人って設定じゃないし」
「それから先は……生きていても仕方がなさそうなら、いっそ」
 ゼオの指摘はあながち外れてはいないようだ。今にも自殺を図りそうな、カイの思いつめた様子に、タカオは慌てて「ジョーダン、冗談だから」と取り成した。
 すると、カイは身体を起こしてすぐさま、タカオの上にのしかかってきた。その重みで胸を圧迫されたタカオが「ちょっと、カイ、く、苦しいって」と悲鳴を上げると、
「おまえは生きて、これからもオレのライバルとして存在しなければならない」
「わ、わかったから」
「オレより先にいなくなるなんて……絶対に……絶対に許さない」
「カイ……」
 強気な発言を続けるカイの目元に光る涙を見て、タカオの胸にもこみ上げてくるものがあった。

 

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「そう、オレたちはずっとライバルだ」
 重ねた唇に熱い想いを込めて──
「愛している」
 それを愛と呼ぶのなら──


                              The End 

《参考文献》皆川博子著『妖櫻記』上下巻

 

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