DOUJIN SPIRITS

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爆ベイ 続・蒼い夜❷

    第二章
 決勝戦が始まった。Fサングレを下したBBA対ネオボーグ、因縁の対決だと、あらゆるメディアや人々が騒ぐ中、タカオの心は不思議なほどに静まり返っていた。
「いよいよ、だな」
 少し前の自分なら、心のどこかにわだかまりをくすぶらせていたかもしれないけれど、今はもう、何の迷いもない。己のすべてをこの時に賭けるだけだ。
 ユーリ対大地の第一試合が引き分けになり、勝負は第二試合で決まることになった。
 スタジアムの前にゆっくりと進む。目の前に現れたのは傷だらけになったカイだった。既に一試合終えたタカオと同じ条件にしたいと、彼はネオボーグのチームメイト、セルゲイ・ボリス両名とのバトルをこなしていた。そこまでしても、タカオとの勝負にこだわっていたのである。
 試合開始直後から、二人は全身全霊でバトルに臨み、見守る人々の想像を遥かに超えた戦いが繰り広げられた。
 荒野のスタジアムは壊滅し、会場そのものも破壊されて瓦礫が飛び散る有り様だが、戦いは激しさを増す一方だった。
 やがてタカオの耳には観衆のざわめきもどよめきも、目の前で崩れゆく岩石の音も、自身のベイが巻き起こす風の音すらも聞こえなくなった。
 そう、聞こえるのは幸せに満ちたカイの言葉だけ──
「この時、この一瞬が永遠に続いてくれるなら……」

    ◆    ◆    ◆

 地下鉄に乗って最寄り駅で下車、目的地の公園へ向かう。並木道をしばらく行くと、目線の先に海辺の公園が広がった。
 鮮やかな花が咲き誇る花壇、あちらこちらに置かれたベンチ、海の向こう側には穏やかな湾にかかるベイブリッジ、公園には思った以上に大勢の人々がいて、それぞれに平穏な時間を満喫している。
 海との境界である柵のところまで進むと、白いシャツを着た、長い緑の髪をした少年がこちらを振り返った。
「こんなところまで呼び出してごめん」
「いや、そんな、気にするなよ」
「ここからの景色が好きなんだ、一緒に見たいと思って」
 柵に腕をかけると、二人は並んで海原を眺めた。菓子を差し出すカップルを目がけたカモメが頭上をかすめて飛ぶ。
 その勢いに大袈裟なリアクションで驚いてみせたタカオ、彼の様子を見て、ゼオが笑い転げる。はしゃぐ二人は互いに、次の言葉を探していた。
「改めて……優勝、おめでとう」
「ああ、ありがとう。観にきてくれていたんだよな」
「もちろん。素晴らしい試合だった……」
 そこまで言うと、ゼオはいったん口をつぐんだ。
「今日はお別れを言いにきたんだ」
「……えっ?」
「今度はオーストリアに留学することになって」
「そ、そうなんだ。何だか急な話だな」
 思いがけないセリフに戸惑い、つい視線が泳ぐ。
 寂しそうに目を伏せたゼオは「やっぱり、あなたたちの間に入り込むのは無理だった」と呟いた。
「あなたたちって……」
「木ノ宮タカオと火渡カイの間には何人たりとも入り込めない絆がある。試合を観て実感した。絶望したんだ」
 返す言葉を失ったタカオが黙り込むと、ゼオは再び海原に目をやった。いくらか傾きかけた陽を受けて、小さな波頭はうっすらとピンク色に染まっている。
「縁起の悪い話をしてごめん、って先に謝っておくよ。タカオ、もしもあなたが今、この世から消えてしまうことがあったとしたら、ボクは悲運を呪い、嘆き悲しむ。家に閉じこもり、泣いて日々を過ごす」
「……そ、それ、マジで縁起悪いぜ。シャレになんねーよ」
 いきなり何を言い出すのかと思えば。タカオは取り繕うように、わざとおどけて返したが、感極まったのか、ゼオの瞳には本当に涙が浮かんでいた。
「そして、あの人はきっと……あなたを失った瞬間に己の命を絶つだろう。何のためらいもなく、ね」
 まさか、と絶句するタカオに、ゼオはたたみかけた。
「あの人はあなたに執着し、あなたに勝つことだけのために生きている。それを愛と呼ぶのなら、あの人の愛には誰も勝てない」
 思わず肌が粟立って「愛っつーか執念……」と口走ると、ゼオは涙目になりながらも、いたずらっぽい口調で言った。
「御愁傷様だね、タカオ。あの人はあなただけが生き甲斐なんだ。この先も……たぶん一生、あなたにこだわり続けるよ。覚悟しておいた方がいいね」

──一週間後、ゼオは機上の人となった。

 

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 世界大会が終了してしばらくは平穏な時が続いた。
 ところが、元ボーグの幹部・ヴォルコフが率いる、VEGAなるベイのプロリーグ組織がBBAを買収、大転寺は会長の座を追われた。しかも、兄の仁はVEGAのコーチとして招かれ、それを承諾したのである。何か考えがあってのことだろうとは思うが、決していい気持ちはしない。
 その上、ヴォルコフとの決着をつけようと、VEGAに乗り込んだネオボーグのユーリは重傷を負い、未だ意識不明の状態で入院している。誇り高く、プライドも高い彼が人工呼吸器に繋がれた姿を見るのは忍びなかった。
 VEGAに対抗すべく、Gレボリューションチームを結成したタカオの元には世界中から仲間たちが集まった。その中には盟友であるレイやマックスの姿もあったが、カイはそこにいなかった。
 VEGAもBBAも関係ない、タカオの存在のみに妄執するカイはVEGA入りを望んだ。そんな彼の行動にも、タカオはもう驚くことはなかった。
 あの日ゼオが語ったように、カイはタカオと戦い、勝つことだけのために生きているのだ。それでもいつか、ここに戻ってきてくれたなら──タカオはカイを待ち続けた。

                                ……❸に続く