※木ノ宮タカオ生誕祭を記念して描いたイラストと、それを元に書いたオシャレ(勘違い)SSです。サブタイトルは「お誕生日のお祝いにと、あちらのお客様からです」
ーDANCING IN THE DARKー
いつもの街角を曲がると、薄ぼんやりした光景の中にブロンズ色の扉が浮かび上がる。バー、『CORCOVADO』は今夜も静かに佇んでいた。
オレンジ色に照らされた店内、低く流れるジャズは愛を歌い上げる男性ヴォーカルのナンバーだ。一度でいいからそんなふうに言ってもらいたかったと思いつつジャケットを脱ぎ、ネクタイも外して指定席に座る。
カクテルを注文するより先に、馴染みのバーテンダーが「今日はお誕生日だそうですね、おめでとうございます」と話しかけてきた。
そうだ、今日、三月二十一日は自身の誕生日じゃないか。忙し過ぎて、そんなことも忘れていたのかと苦笑する。
「でも、どうしてそれを? そんな話、したことあったっけ?」
するとバーテンダーは淡い黄色のロングドリンクを目の前に置いた。ホワイトラムをベースに、ソーダとグレープフルーツを使ったお気に入りのカクテルだ。レモンやライムを使うのがスタンダードなのだが、ここは敢えてグレープフルーツ。グラスの底から小さな気泡が立ち、氷のかけらを包み込んでいる。
「お誕生日のお祝いにと、あちらのお客様からです」
そこで初めて気づいた。向こうのカウンター席に臙脂色のジャケットの後ろ姿が見える。
忙しくて会えないと言われて、どれぐらい経ったのかもわからない。もう、忘れた方がいいのかもしれないと、自分に言い聞かせていたのに……
「……わざわざ探してくれたんだ」
「造作もないことだ」
「とりあえず礼は言うよ」
「それには及ばない」
そう言ったあと、背を向けたまま彼は頭上のスピーカーを指さした。耳を澄ますと、フレッド・アステアが歌う『DANCING IN THE DARK』が流れている。
Dear one
Tell me that we’re one
いとしい人よ ふたりはひとつだと言っておくれ
End