DOUJIN SPIRITS

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爆ベイ SAY YESーカイタカ結婚物語❸

    第三章

 六月、大安吉日。
 梅雨入りしてはいるが、今日は気持ちのいい快晴である。オレの行いがいいお陰だと、タカオは自慢げに言った。
 数時間後、ホテルのチャペルで、挙式は厳かに進行していた。そこには気難しい表情の火渡宗一郎の姿もあったが、美咲がどうやって義父を説得したのかは、定かではない。妻の隣で進は始終笑顔だった。
 タカオをエスコートするのは、この日のために帰国した父・木ノ宮龍也で、感慨深げな顔をしている。花嫁の晴れ姿を天国の母親にも見せてやりたかったと思っているのだろう。紋付袴姿の龍之介は早くも号泣し、仁に宥められていた。
「永遠の愛を誓いますか?」
——ドラマの中でしか見たことのない場面に今、自分がいる。
「誓います」
 隣でそう答える白いタキシード姿が少しばかり滲んで見える。
 謎めいたデザインのファッションで、錘入りの白いストールをなびかせ、頬に青いペイントを施していた生意気な少年。そんな彼が、ベイで決闘するという最悪の出会いから、数えきれない程の対決を経て今、生涯の伴侶になった。
 幾度となく訪れた危機を乗り越えて結ばれた二人の絆——
 ヴェールが軽く振れる。
「……誓います」

    ◇    ◇    ◇

 場所を『革命の間』に移して披露宴が始まった。
 火渡エンタープライズのお偉方やら、来賓の祝辞が延々と続く。祝ってもらっている身としては感謝を表し続けねばならず、慣れない衣裳もあって、次第に疲弊してきた。
 乾杯が終わり「暫しの御歓談」の時間になっても、高砂の席には招待客がお祝いの言葉をかけるために、次から次へとやって来る。目の前に並べられた料理に手をつける暇はなかった。
「……クソッ、腹減った~」
 新婦の呟きを聞き咎めた新郎は「別に食べて悪いわけじゃない」と言ったが、タイミングがつかめない。
 ふと友人席を見ると、大地が嬉しそうにステーキにかぶりつき、ビールをじゃんじゃん飲みまくっていた。あの頃の悪ガキがそのまま大人になった姿である。
「あいつめ~。ちゃんと御祝儀持ってきたんだろうな? タダ飯だと思ってたら、あとでシメてやる」
 披露宴に於いては、新郎は招待客たちの祝杯(大抵はビール)を受けなければならない。もちろん中にはアルコールが苦手な人もいるので、そのために高砂席の裏・足元には、注がれた酒をこっそり処分するためのバケツが置いてあるが、カイはお酌された酒すべてを飲み干していた。
「おい、そんなに飲んで大丈夫か? 酔っ払っちゃってバトルに参加できませーん、って言っても知らないぜ」
「これしき、ちょうどいいハンデだ。おまえこそ、腹が減ったからってリタイアするんじゃないだろうな」
「せっかく企画したのに、誰がするかよ」
 二次会のベイバトルに対し、異常なほどの闘争心を燃やす新婚夫婦、するとその時、司会者が「それではここで、祝電を御披露したいと思います」と言い、届けられた電報を読み上げ始めた。
 帝王学園理事長と校長が連名で、また、大転寺元会長からも温かみ溢れるメッセージが届いていた。
「続きまして、新郎・カイ様のご友人からです。『ご結婚おめでとうございます。ライバル同士だったお二人が人生におけるタッグを組むと知って驚きましたが、今にして思えばこうなる予感はありました。お二人の幸せを遠くロシアの地からお祈りいたします。かつての相棒より』ユーリ・イヴァノーフ様」
「えっ、ユーリ?」
 タカオは驚いてカイの方を見た。
「たしか招待したよな。二次会、来られなかったんだ」
「そうみたいだな。さすがにロシアから日本は遠いだろう」
「その割には、おまえもユーリたちもしょっちゅう行き来していた気がするけど」
「気のせいだ」
 祝電披露が終わるのを待って、ついに礼服姿の仲間たちが駆け寄ってきた。
「カイ! タカオ! おめでとうねーっ」
 真っ先に飛びついてきたのはマックス、続いてレイが「二人とも、三国一の花嫁と花婿だ」と言ったため、
「レイ、それ、ウチのじっちゃんと同じコメント」
「えっ、そうなのか?」
「いやぁ、本当にキレイですよ、タカオ。やっぱりエステに行きましたね?」
「行ってねーって」
「なあなあタカオ、あのステーキ美味かった。おかわりはないのか?」
「おまえなぁ、もっと先に言うことあるだろーがっ!」
「やれやれ、相変わらずやかましいヤツらだ」
「気取るなーっ」
 わいわいがやがや、齢を重ねて、それぞれの人生を歩んでいるけれど、こうやって集まればかつて世界大会で優勝し、互いに喜びを分かち合った、あの頃に戻れる。仲間って本当にいいものだ。
 大転寺元会長、BBAニュースにするなら、是非この場面を使ってください。見出しは『世界大会優勝の感動、再び』で。

 

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 二次会は新婦が元世界チャンピオンの面目躍如で優勝、決勝で負けた新郎は「飲み過ぎたせいだ」と言い訳をした。
 三次会で旧交を温めたあと、二人は式を挙げたホテルへと戻ってきた。結婚式に利用した特典として、無料でスイートルームに一泊できるのである。
 キングサイズのベッドに、大の字になって寝転がると、タカオは「あー、疲れた」と言って欠伸をした。
「式だけでもキツかったのに、バトルなんかやっちまったからなぁ。でも久しぶりで楽しかったな」
 カイはといえば、ジャケットをクローゼットに吊るしたあと、無言のままで淡々と身支度をしている。この期に及んでタカオに負けたのが余程悔しかったのだろうか。
「なあ、カイ。おーい」
 返事はない。
 少しばかりイラッとしたタカオは身体を起こすと、カイの近くへと寄り「あのさぁ、さっきの決勝で『さあ来い、木ノ宮!』って言ったよな?」と問いかけた。
「それがどうした?」
 いつものことだろうと言わんばかりのカイの目の前に、タカオは左手を突き出した。薬指には真新しいプラチナのリングが光っている。
「これ、外しちゃってもいいわけ?」
「どういう意味だ」
「先週、式より先に済ませておこうって言って入籍したよな? 今のオレって『火渡タカオ』じゃねーの?」
 カイの表情に「しまった」の文字が貼りついている。長年の習慣でつい「木ノ宮」と呼んでしまったのだろう。
「ま、別に木ノ宮に戻ったっていいけど~。あー、でも、式の直後に出戻ったなんて、またじっちゃんがうるさく言う……」
「タカオ」
「へっ?」
 キョウジュたちからはずっと「タカオ」と呼ばれていて、それが当たり前で気にもならなかったのに、カイに改めてそう呼ばれると、妙にこそばゆいし座りが悪い。
「微妙な反応だな。しかしオレとしても、他に呼びようがないんだが」
「ああ、やっぱ木ノ宮でいいや」
「旧姓で呼ぶわけにはいかないだろう」
「夫婦別姓にするとか」
「必要性を感じないな」
 タカオ、ともう一度口にすると、カイは少し照れた様子でタカオを見た。
「うわっ、なんか恥ずかしい」
「こっちだって……」
 そう言いながらタカオに近づいたカイは両手でそれぞれ両の肩を掴んだ。どちらかと言えば淡泊な男だが、お相手のファーストネームを呼んだことと、酒の勢いも手伝って、ラブラブモードに突入したらしい。
「な、なに?」
 真正面にカイの顔がある。熱を帯びた眼差しに思わず声が上ずってしまったが、何をされるのかは予測できた。
「ん……おめー、酒くせーよ。そういや、三次会でも飲みまくってたっけ。これだから酔っ払いは」
「文句を言うな」
 キスならもう、何度か交わしている。が、それ以上となると未知の世界だ。
「ちょ、ちょっとタンマ」
 タカオの反応に、カイはムッとした様子で、
「何がタンマだ。今夜がどういうものなのかわかっているのか? 『新婚初夜』だぞ」
「いや、今時その表現はどうかと」
「御託はいい、さっさと腹を括れ。ここで終わってしまったら読者の期待を裏切ることになる」
「何の話?」
「いいから従え」
 そのままベッドの上に二人で倒れ込む。この状態がいわゆる「押し倒す」なのか、などと考えていると、シャツに手がかけられた。
「さ、先に風呂入った方が……」
「あとでいい」
 服がはぎとられ、すべてをさらけ出す格好になったタカオを眺めて、カイは満足そうに笑みを浮かべた。
「なんだよ、そんな目で見るなよ」
「どんな目で見ればいいんだ?」
 カイ自身も服を脱ぎ、タカオを抱き寄せた。お互いの肌が触れ合って、鼓動の高鳴りが苦しいほどだ。
 耳朶から首筋へキスが注がれる。やがて指先が胸へと移ると、タカオは自分でも驚くほどの声を上げてしまった。
「や、ちょ、ちょっと、ヤバ」
 背筋がぞわぞわする。身体のあらゆる部分、それぞれがこんなにも敏感に反応するものだとは思ってもみなかった。
「えっ、……も?」
「何年男をやっている、一番感じるところだろうが」
「そ、それはそうだけど、誰かに触ら……あ、ダ、ダメ」
「なんだ、もうヘタッたのか。ザマはないな」
「そっちは……まだ元気じゃん……負けた」
 アソコの部分を比べ合い、ベイバトル以外の場面でも張り合う二人、だが、情勢は『受』であるタカオにとって不利だった。
 意識したことなどなかったけれど、人一倍感じる体質らしい。あちらこちらの弱点を攻められ、意識が朦朧としてきた。
「ちくしょー、こうなったらアルティメットストーム……は古いな、そうだ、ライジングハリケーンで反撃……」
 ワケのわからない言葉を口走るタカオ、
「どこがアルティメットだ? ここか?」
「ち、違うって。そんなとこ触るなよ……えっ、マジでそこ?」
「知らないわけじゃないだろう。カマトトぶるな」
「ぶってねえし」
 男同士とは『そこ』を使うのだという知識はあったが、いざ実践となると尻込みしてしまうタカオに、カイは自信満々な様子で言い放った。
「今からオレのフレイムセイバーをたっぷりとおみまいしてやる。朝まで寝かせないからな、覚悟しろ」

                                ……❹に続く