DOUJIN SPIRITS

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爆ベイ SAY YESーカイタカ結婚物語❹(最終章)

    第四章

 火渡邸での豪勢な生活は庶民出身のタカオにとって驚きの連続だったが、それにも慣れてくると今度は暇を持て余すようになった。
 お屋敷あるあるの倣いで、火渡家も何名もの使用人を抱えているため、料理、洗濯、掃除——家事と呼ばれる作業のほとんどは彼ら、彼女らの手で行われる。主婦業をやる機会がないから、専業主婦ですらない。
 当初は物珍しさも手伝って、オーディオルームで映画を鑑賞したが、ガラではないのですぐに飽きた。あとはトレーニングルームでストレッチしてみたり、そこに設置されたスタジアムでベイを回したりする以外に建物内での暇潰しの手段がなく、買い物にも興味がないので外出といえば、たまにキョウジュとランチに行く程度である。
 舅——義理の父となった進を訪ねて、開発中のベイの話を聞くのは楽しかったが、宗一郎がいい顔をしないから頻繁には行けないし、仕事の邪魔になってはと思うと、つい遠慮してしまう。
姑——義母・美咲は宗一郎の秘書兼付き添いのようなことをやっていて忙しく、ほとんど会話をする間もなかった。もちろん夫も多忙で、世界大会で行った思い出の地を回ろうと計画している新婚旅行も、いつになるのか見当もつかないでいる。
 ならば実家に行って、祖父の剣道の稽古につき合うことも考えたが、ヘタに訪ねると、粗相をして帰されたのでは、離縁されて出戻りになったのではと騒ぐため、それもできない。
 けっきょく今日もベイを回して終わりそうだ、と思いながら、二階の部屋を出て中央の階段を降り、祖父の道場と同じぐらいの広さがある玄関ホールに出た。
この先の廊下をたどってトレーニングルームに行くのだが、あまりにもだだっ広いホールを目にして、いたずら心に火が点いた。手にしたベイを構えると、
「ゴーッ、シュート!」
 放たれたドラグーンがホールの隅々を駆け回る。白いベイは大理石の床から柱を伝い、そこに飾られている悪趣味なブレートアーマーの、銀色に鈍く光る頭上へと乗った。
「よーし、行っけぇー」
 開店祝い並みに花が盛られた花器、美術館かと見紛うオブジェと、次々にターゲットを掠めて走り抜けるドラグーン、と、そこへ、ホールでの物音を聞きつけた古参の執事が大慌てでやって来た。カイが子供の頃から屋敷に勤めている、いわば『じいや』である。
「若奥様、お屋敷内でベイを回すのはどうかおやめください。それはトレーニングルームで……」
「えー、だって、あそこ飽きちまったんだもん」
「そうおっしゃられましても」
 そこへカイがスーツ姿で現れた。仕事の合間に自宅へ立ち寄ったらしい。
「何を騒いでいる?」
「ああ、カイ様。若奥様が……」
 チラリとタカオを見やって「好きにさせておけ」と応えると、
「しかし……」
 するとその時、カイの背後に控えていた秘書が「若奥様、お久しぶりです」と挨拶してきた。
「久しぶりって、いつも会って……」
 そう言いかけて、タカオはハッとした。この前までの秘書とは違う人物、その顔に見覚えがあったからだ。
「あっ、もしかして、デジタルバードを使っていた?」
「南ユウヤです。お忘れではないとわかり、大変光栄です」
 どういう経緯があって就任したかはわからないが、新しいカイ付きの秘書は帝王学園時代の後輩、ユウヤだった。
あとで知ったことだが、以前の秘書は昨日付けで依願退職したらしい。彼はかつて『シェルキラー』の一員だったのだが、四天王でも何でもなく、モブキャラすぎてタカオの記憶になかった。
そのじつ「火渡カイファンクラブ(男子限定)なのでは」とまで言われていた『シェルキラー』、そのメンバーだった元秘書も御多分に漏れず、憧れのカイと一緒に仕事ができることを喜んでいたが、カイとタカオの結婚に、内心ショックを受けていたのである。
「そっか。こちらこそ、よろしくな」
 タカオはその時ユウヤが見せた不敵な笑いに気づかないままで、するとカイが「おまえ、暇過ぎるからつまらんマネをするのだろう」と言い、さらに続けた。
「子供でもいれば子育てに忙しくなって、ベイどころではなくなる。この際だ、子供をつくるぞ」
「はあ? 子供? なに、そのパワーワード」
 思わず訊き返すタカオ、ここまでありとあらゆる問題に触れずにきたが、さすがに妊娠は無理だ。生物としての器官が備わっていない。
「オレにどうやって子供を産めと?」
「産めとは言っていない、『創る』んだ。火渡エンタープライズの科学力をもってすれば、不可能ではない」
「ちょ、ちょっと待った! もしかしてクローン人間とか? それって倫理的にアウトなやつじゃん」
「知ったことか。いいか、オレとおまえの遺伝子を組み合わせれば最強のブレーダーができる。面白くなってきたな」
 ニヤリとほくそ笑む夫の姿に、タカオはたじろいだ。
こいつ、本気で言ってるのか……

 待望の長男・ゴウが、続いて次男のマコトが生まれるのは、それから数年先のことである。
                                  〈つづく〉

 

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